物流業界は、多くの課題解決が必要な過渡期に差し掛かっている業界です。中でも「2025年の崖」はその到来が差し迫ったものとなっている以上、各企業が迅速に解消に向けて取り組むべき問題と言えます。
この記事では、そんな「2025年の崖」とはそもそもどのような事態なのか、物流業界にどんな影響を与えるのか、そして、どのようにして「2025年の崖」を乗り越えれば良いのかについて、解説します。
「2025年の崖」とは
「2025年の崖」は、経済産業省が発表したDXに関するレポートの中で紹介された造語です。デジタル技術の革新が世界的に進む一方、日本では企業における業務のデジタル化が遅々として進んでいません。
デジタル化の遅れは企業に多大な機会損失やメンテナンスコストの増大などをもたらし、日本全体で最大、年間12兆円もの損失をもたらすと言われており、これが2025年にやってくるとされていることから、この名前がつけられました。
つまり「2025年の崖」とは、日本におけるDXの遅れが日本経済全体に大きな損失をもたらすかもしれないことに対して警鐘を鳴らすため、広く知れ渡るようになった言葉です。
また「2025年の崖」はあらゆる業界のデジタル化の遅れを対象とした言葉で、物流業界も例外ではありません。
近年は「2025年の崖」という言葉が使われるようになった当時よりもデジタル化は進み、当初危惧していたほどの損失は生まれないとも考えられますが、依然として十分なDXが進んではいないケースも少なくないため、引き続き、問題の解決に向けたIT活用が求められます。
「2025年の崖」が物流業界に与える影響
「2025年の崖」は、具体的に物流業界へどのような影響を与えるのでしょうか。ポイントとして抑えておくべきは、以下の事象が挙げられます。
業務コストの増大
「2025年の崖」を何の改善もないまま迎えてしまうことで、まず懸念すべきが業務コストの増大です。「2025年の崖」はツール運用のコストが増えたり、人件費が必要以上に発生するなど企業の収益性を損なったりすることが問題視されています。
業務コストが大きくなってしまうと、思ったようにサービスを維持したり規模を拡大したりすることがなくなり、組織そのものの継続性を極端に損なってしまいます。今後は人材不足が進み、ますます人件費の高騰などが進むと考えられる以上、できる限りDXを推進してコスト削減に取り組むことが必要です。
サービス改善の停滞
自社のサービスを老朽化したシステムで提供を続けるとなると、時代のニーズに沿ったサービスを提供することができず、顧客満足度の低下を招いたり、トラブルの原因となってしまいます。
外部サービスを利用することで現在よりも効率的に業務を進めることができることがわかっているのに老朽化したシステムが原因で連携を進めることができなかったり、そのことが原因でデジタル化が進む他社に比べてサービスの品質が見劣りすると顧客が離れてしまうことも起こり得ます。
常に最新のデジタル技術を導入し続ける必要はありませんが、優れたサービス提供を通じて他社に対する優位性を保つことできるよう、継続的かつ戦略的にITへの投資を行う必要があります。
サイバー攻撃リスクの増加
老朽化したシステムを使い続けることは、サイバー攻撃のリスクを高めることにも繋がります。定期的に利用しているソフトウェアの更新を行い、サイバー攻撃によるリスクを可能な限り小さくしておくことが欠かせません。
サイバー攻撃は、実際に受ける被害はもちろん、世間の企業に対する信頼を失うことにも繋がるきな脅威であることは覚えておく必要があるでしょう。
協力会社の減少
システムの刷新が進まないと運用負担が増えるだけでなく、提携可能な協力会社や、受発注にる外部システムを利用している場合はそこに接続できなくなるおそれがあるため、十分に注意しておかなければなりません。
周りが最新のシステムを使用していて、自社は古いシステムを使い続けていると、アプリやOSの互換性が失われてしまい、データベースの共有やアプリの連携ができず、業務負担が大きくなってしまいます。
結果、最新のデジタル化が行われている企業との契約を優先され、自社に案件が来なくなってしまうようなケースが想定されるわけです。
「2024年問題」との違い
物流業界は「2025年の崖」とは別に「2024年問題」と呼ばれる課題にも対処しなければなりません。「2024年問題」とは、働き方改革法案の施行に伴い、ドライバーの長時間労働が大幅に規制され、従来のビジネスモデルを維持することが困難になるという問題です。
「2024年問題」は物流業界特有の問題として紹介されることもありますが、実際には「2025年の崖」と関連のある部分も少なくありません。そもそもどちらの問題も、根本を辿ると最新デジタルサービスの活用が現場で進まず、効率の良い人材活用やビジネスモデルの構築が停滞していることに原因があるからです。
つまり、いずれの問題に対処する場合も、まずは抜本的なデジタル化によって業務環境を刷新し、新しい環境で事業を再スタートする必要があるという話です。
「2025年の崖」をもたらす要因
「2025年の崖」を物流業界にもたらす要因としては、以下のようなものが考えられます。
システムの老朽化
「2025年の崖」において懸念すべき事態が、システムの老朽化です。いわゆるレガシーシステムと呼ばれる、メーカーでのサポートが終了し、陳腐化によって維持管理のコストが増大するようになったシステムを使い続けることが、事業にとって大きな負担となってしまうでしょう。
古くなったシステムは年月を経ていくほどに、そのコストは大きくなっていきます。またパフォーマンスも相対的に低下することで、生産性の改善や人材不足の解消を遠のかせる原因となってしまいます。
IT人材の不足
システムの老朽化が解消されない理由にも繋がりますが、IT人材の確保が進まないことも「2025年の崖」の要因です。最新のITツールに対して知見があり、現場の改善を進められる人材がいないと、効果的なデジタル活用が進みません。
手っ取り早い不足の解消方法はIT人材を外部から獲得することですが、近年のDX需要の拡大に伴い、IT人材の獲得コストや給与水準は年々増加傾向にあります。自社でIT人材の育成に取り組むことはとても大切ですが、一朝一夕に育成できるものではありません。まずは外部のプロフェッショナルの力を借りてデジタル化を推し進めると同時に、社内のIT人材育成を行っていくのが良いでしょう。
デジタル技術の急速な革新
デジタル技術はこの5年〜10年ほどで、驚くほどの成長を遂げています。代表的な例とも言えるのが各種クラウドサービスの登場やAIの登場で、すでに多くの企業がこれらの技術を採用し、多大な成果を挙げています。
このような技術は従来には存在しない、新しい概念であるため、その運用ノウハウを有する人材は限られています。また、これらの技術は今後も更なる進化を続けることが予想され、常に最新のITに目を光らせることのできる人材や学習環境を整備する必要があるでしょう。
「2025年の崖」を乗り越える対策方法
上記のような課題を解決するため、物流業界は以下のような対策に取り組むことが重要です。
人材の確保
まず必要なのが、やはり人材の確保です。ITを扱える人材の獲得、あるいは外部のプロフェッショナルを招いてデジタル化を推進すると同時に、社内でITに関する教育を実施してノウハウをアップデートすることが大切です。
システムの刷新
老朽化したシステムから最新のシステムへと入れ替えを進めましょう。システムの刷新に伴い、業務フローの刷新なども必要になりますが、可能であれば既存の業務フローが活かせるツールを探し、導入することも検討します。
また、多少の業務フローの変更は覚悟の上で、新しいシステムを導入することも大切です。環境の変化には慣れも必要ですが、時間の経過とともに徐々にパフォーマンスが向上することも期待できます。
文化レベルでの抜本的な組織DX
「2025年の崖」を乗り越えるためには、組織レベルでのDXを進める必要もあります。IT活用を専用の部門に任せるのではなく、経営者層から一気通貫でデジタル化を進め、デジタル活用が当たり前の文化を定着させなければなりません。
まとめ
この記事では、「2025年の崖」とはどのような問題なのか、物流業界にどんな影響を与えるのかについて紹介しました。
IT化の遅れは一つの企業だけでなく、日本経済全体に多大な影響を与えるとともに、今後の事業継続性を奪ってしまう可能性もあります。自社のIT課題を改めて見直し、早急に対処することが求められます。
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