広告の効果は出稿期間中だけ発生する訳ではない
ある商品やイベントの広告を取り下げたとき、その効果はすぐに消えるとは限りません。継続的に、集客効果が続くケースも少なくないのです。この段落では、広告の影響力が続く「キャリーオーバー効果」について解説します。
キャリーオーバー効果とは
そもそもキャリーオーバー効果とは、社会調査法の一種です。アンケート調査を行う際、質問の順番が回答に影響することを指します。ただし、マーケティングの世界では別の意味で使われてきました。広告を取り下げても、残存効果で集客できることをキャリーオーバーと呼びます。キャリーオーバー効果が続いている間は、広告主がお金や労力をかけなくても、ターゲットを消費活動に誘導できている状態です。基本的に、キャリーオーバー効果は長く続くほど、企業利益につながりやすいといえるでしょう。
キャリーオーバー効果が続く要因
なぜキャリーオーバー効果が起こるのか、その要因はさまざまです。まず、「広告自体の浸透」が挙げられるでしょう。TVCMや人気動画などは、高い拡散力を持っています。短期間の広告であっても、大衆に広がることは珍しくありません。一度人々の記憶に広告が残ってしまえば、印象を上書きするのは難しくなります。この現象は、TVやSNSなどの有名な媒体で起こりやすい傾向にあります。
次に、広告主や商品自体の「ブランド力」です。すでに知名度を獲得している企業なら、商品を宣伝するたびに世間から注目されます。そして、優良顧客たちが自然に情報を拡散してくれるので、残存効果へとつながりやすいのです。さらに、「パブリシティ」も重要です。仮に商品やイベントが大きなメディアで取り上げられれば、それ自体が強力な宣伝効果を生み出します。広告が取り下げられたところで、メディアからの「お墨付き」が与えられている以上、需要はなかなか薄まりません。代表例は、情報番組やニュース、バラエティなどで報道される「TVパブリシティ」です。
キャリーオーバー効果は意図的に生み出せるのか
もちろん、マーケッターが緻密に計画し、キャリーオーバー効果を生み出したケースもゼロではありません。一方で、誰もがまったく予想しなかった条件下で、キャリーオーバー効果にいたる可能性もあります。制御しにくい現象であるキャリーオーバー効果を、いかに意図して生み出していくかはマーケティング担当者の課題だといえるでしょう。
広告の効果はいつまで続くのか?
出稿された広告がどれだけ続くのかはマーケティング担当者なら知っておきたいところです。また、キャリーオーバー効果の持続性についても、押さえておくことが肝心です。ここからは、広告の持続期間を解説していきます。
媒体によって広告の持続性は変わる
その広告をどの媒体に載せるかで、持続性は大きく変わります。たとえば、主な広告媒体では以下のようなものが挙げられてきました。
- TV
- Web
- 新聞折込や雑誌などの紙媒体
このうち、「TVCM」は持続性が高い広告だとみなされてきました。TVは老若男女問わず見られているメディアであり、CMを流すことで、一気に全国区の知名度を獲得することも珍しくありません。一方で、CMが流される番組の視聴率には気をつけたいところです。TVCMの効果は「GRP(Gross Rating Point)」という数値で可視化されます。GRPはCM放送中の毎分視聴率です。仮にGRPが低いと、TVCMは世間に浸透しにくくなってしまいます。
次に、「Web広告」の重要性も年々増してきました。もともとWeb広告はネットユーザーを消費活動に誘導するための目的で掲載されてきました。しかし、インターネットの浸透が進むにつれ、これまではTVが担ってきた企業、商品のブランディングも行えるようになったのです。Web広告の効果の持続性も、どんどん高くなっているといえます。そのかわり、インターネットはサイトによって、アクセスするユーザーの属性がはっきり分かれる傾向にあります。ターゲット層に合った形で広告を出稿しなければ、キャリーオーバー効果を起こしにくいでしょう。
紙媒体にも根強い人気があります。特に、中高年以上の年代は、新聞への信頼を失っていません。「新聞に載っているのだから信用できる」と考えるので、一度目にした広告を長く覚えている可能性もあるのです。そのほか、愛読している雑誌の特集や広告を熱心に読み込む消費者もいます。こうした読者による媒体への信頼が、キャリーオーバー効果を生み出すケースもありえます。一方で、新聞も雑誌も広告の出稿期間は短いので、効果がすぐに消える例もまた少なくないのです。
Webと紙の広告ではどちらのほうが持続する
読売新聞が健康食品通販大手・万田発酵の協力で行った「小売業、通販業における広告効果測定調査(2016年6月-2018年11月)」によれば、広告接触から購入までの期間が短いのは「Web広告」でした。実に62.4%の消費者が、広告接触から1カ月以内に商品を購入しています。それに対し、「紙媒体への折込」では、38.5%が広告接触から2カ月以内に購入へといたっています。この割合は、Web広告の28.1%よりも10%以上高い結果となりました。つまり、紙媒体の広告は即効性が薄いかわりに、持続性が生まれやすいといえます。
もちろん、この調査はあくまでもデータのひとつです。実際には、ターゲット層と媒体との組み合わせ次第でキャリーオーバー効果を生み出せるケースもあるでしょう。
キャリーオーバー効果を推測するには?
予想外の流れでキャリーオーバー効果が起こることは少なくありません。だからこそ、広告の持続性を予測できるようになれば、その企業は競合他社に対して有利な立場となります。ここからは、キャリーオーバー効果を推測する方法について解説します。
MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)の重要性
マーケティング担当者から注目されている考え方のひとつが「MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)」です。MMMとは、マーケティングに影響している要因を時系列に並べかえていく方法です。そして、統計的手法を利用し、「要因同士の影響を可視化するモデル」を導きます。MMMが完成すれば、マーケティングに関する施策がどのように、売上や知名度獲得に影響するのかを把握しやすくなります。もちろん、広告の持続性を予測したいときにも、MMMは有効です。
■mmmについて知りたい方はこちら
MMMを活用する際の注意点
実際にMMMを活用するなら、必要なデータを大量に収集するようにしましょう。MMMでは、ビジネス関係のすべてのデータに利用価値があります。逆をいえば、データ不足のままMMMを作り上げたとしても、高精度の予測はできません。MMMに必要なデータは多岐にわたり、商品の購入数やサイトのPV、SNSへのリアクションなども含まれています。しかも、それらのデータのひとつひとつが正確でなくてはなりません。まずはデータ収集に力を注ぐことが肝心です。
次に、MMMには「あくまでも過去のデータに基づくモデルである」との意見も投げかけられてきました。つまり、業界に大きな構造改革が訪れた場合、過去のデータだけでは予測が追い付かないとする不安もあるのです。ただし、MMMでは過去に起こった構造改革の際、「業界がどれだけ変化したのか」を調べることは可能です。未来の構造改革を完璧には予測できなくても、過去の事例を参考にしたいならMMMは役立ちます。媒体ごとのキャリーオーバー効果が過去、どのように変わってきたのかを確認すれば、未来への備えになるでしょう。